君のところへあと少し。
(その4)波留と和也

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海音は海沿いに走る国道沿いにある喫茶店だ。

ふらりと立ち寄る人、毎日の様に訪れる人、客層も様々だ。

店の裏口から出ると海岸に降りることが出来る。

建物の整備は大変だが、叔母夫婦から譲り受けた店に愛着がある。

ハルが自分で手入れし、リメイクした箇所はかなりある。
力が足りない時はいつもナリが手伝ってくれた。

力仕事はナリがいつだって引き受けてくれた。

スイーツ食べさせてくれたらいいから。

そう言ってやってくれるのだ。

ナリだって営業をやってるから、肉体的にキツくないわけがない。

自らの仕事を終わらせ、ハルが頼む日曜大工を引き受けてくれる。


そんな風にナリに依存してしまっている自分が嫌になる。


彼の好意を好きと勘違いして気不味くなったら、今後が困る。

そう思ってしまうのだ。




店にはハルが日常生活するスペースが2階に作られている。

生活スペースとはいえ、6畳一間しかない。

しかも、風呂がないためハルは近くにアパートを借りてそちらで生活している。


祭りの会場が店の少し先にあるため、早めに帰らなければ人混みに紛れなければならなくなる。

だが、仕事が終わったら店に来る、と言ったナリを無視出来ない。

19時前に店を閉め、とりあえずナリが来るのを待った。


手には最近機種変したばかりのスマホを持って。
カウンターに座り、アイスコーヒーを飲む。

(メールしてみようかなぁ。)


そろそろ人が溢れ始めている。
ナリが居てくれるなら多少の人混みはなんとかなる。

(えーと、仕事まだ終わりませんか?で、いいかな。送信、と。)


メールしてからボンヤリと海を眺める。


「あれ?何か光ってる。」


波打ち際辺りだろうか。
何かがピカピカ光っている。


裏口から外へ出ると、夏特有の熱気がハルを包む。


階段を降り、光る何かに近づいて行く。


「あれ?ナリ?」

「おう。ごめん、連絡忘れてた。」

ピカピカ光っていたのは、ナリが手にしていたスマホだった。



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