君のところへあと少し。

14

薄暗くなった視界の中、よく見るとナリはサーフボードを抱えていた。

逞しい胸板。

見慣れた筈のその姿を目の当たりにして、ハルは赤面する自分の顔を意識した。


「え?今海に居たの?」

「あぁ。ちょっとだけな。メール来たから上がってきたとこ。」

確かに、前髪からは雫が落ちている。

「波あったの?」
「多少な。ちょい精神統一のためっつーかなんつーか。裏のホース借りていいか?水かぶってくるわ。」



ボードを店の駐車場脇に立てかけると放水用に置いてあるホースで水浴びを始めたナリを呆気に取られて眺める。

「来てるなら声かけてくれたら良かったのにー。」


ブルブルッと頭を振り、水気を飛ばすとナリは垂れた前髪をかき上げた。


「すまん、精神統一って言ったろ。声かけたら意味ねぇんだわ。あー、バスタオル忘れた…しゃあねぇ、このまま」
「貸すから待ってて。」

店に入り2階に上がると、引き出しからバスタオルとフェイスタオルを持って店先に出る。


「やほー、ハル!」


先程までナリしかいなかった駐車場に、奏と奏の彼女の日和が居た。


「奏、ヒヨちゃん。」

バスタオルをナリに手渡しながら話しかけに答える。

「ハルちゃん、お祭り行かないの?」

浴衣を着てめかし込んだ日和。
可愛いなぁ、と思いながら自分のすっぴんが急に恥ずかしくなる。

「あー、なんていうか。人に酔うの。だから行かないし、ていうか独りで行っても寂しいじゃん?」

何回も同じことを言ってるなーと思いながらも日和に説明する。

「え?ナリくんと行くんじゃないの?」

日和の言葉にハルは固まった。

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