君のところへあと少し。

24

店に入り、椅子にハルを座らせる。

俯いたまま、こちらを見ようとしない。


ちょっと前までの、あの、楽しく甘い時間を返して欲しい。

会社のやつらに会うとは思わなかった。
ましてや、依子に…。

「依子…山崎依子っていう、さっきハルに文句言ってた奴は、高校生の時にオレが付き合ってた奴なんだ。
でも、別れた。
オレさ、高卒で上手く今の会社に就職出来て。
付き合いとか、仕事とか、覚える事や、やらなきゃならない事がたくさんあってさ。
別れたんだ。19のとき。
あいつも新しく彼氏作ってたから、ちゃんと納得してくれてると思ってた。

今年、同じ会社に就職してきて。
やり直そう、って何回も言うから、やり直す気は無いってずっと断ってた。」

微動だにしないハル。


下を向いたまま、俯いた顔は長い髪にかくされている。


ナリは、手を伸ばしハルの髪を耳にかける。

しゃがみこんでハルの顔を覗き込んだ。




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