君のところへあと少し。

32

奏の怒りはハルにも、ナリにも向いていた。

ふたりの気持ちを知っていたからこそ、何とかしたいと考えていた奏。

ナリとは幼馴染で、過去の事も色々知っていたから力になりたかった。


こんな風にハルを傷付ける前に。


「いい加減、素直になれ、ハル。」


険しい表情を崩さず奏は言う。

「お前が何を考えてるかだいたい想像がつく。何度も言わない、素直になれ。」


知り合ってから初めてかもしれない。


奏が“男の顔”をしている。
年下なのに、ハルを守ろうとする兄のように。


奏のうしろで日和が微笑んだ。

「奏はこんな言い方してるけど、ハルちゃんのこと好きで好きでたまらないんだよ。だからきつい言い方になるの。許してやってね。」

「日和!余計なこと言うな‼」

照れて真っ赤になった奏。

気持ちが嬉しかった。


「ごめんね。奏とヒヨちゃんに迷惑かけて…。色々あっていっぱいいっぱいになっちゃった。」

苦笑いしか出来ないけれど。

「ちゃんと向き合うから。奏、ありがと。」

頭をさげた。

「ん。わかった。
それとハル、お前男から口説かれてただろ。」


ガタっと音がして奏が振り向くと、後ろでナリが手にしていたスマホを落としていた。


「誰に⁉」

「さぁね、客だったよ。背の高いやつ。ハルより年上だね。手を握って何か言ってたから。何を言ったかは聞き取れなかった。」


…見られてたんだ。
河内さんに口説かれてたとこ。


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