君のところへあと少し。

2

それは、少しはにかんだ顔をしている彼女だった。


「すごいですね、感動しました。あたし、そういうセンスとかなくて、、、ハルちゃんからお話きいてたので実際に聴くことが出来て嬉しかったです。
また、聴かせてください。」

ぺこり、と頭を下げて満面の笑みで彼女は「じゃあ、また。」と立ち去る。

考えるよりも先に手が伸びていた。


「名前は?」


真っ赤になった彼女の顔。
忘れない。この瞬間を。
恋に落ちた、その時の笑顔を。

「え…あの。」
「ヒヨちゃん?どした?」

何かを察知したのか、ハルが間にはいる。

「いや、いつも見るけど名前知らないから聞いたの。」

ハルに向かい、そう告げるとハルがニコリと笑う。

「松嶋 日和ちゃん。ナリや奏よりひとつ年下だよ。松嶋青果店の娘さん。うちに果物おろしてくれてるの。」

紹介されて彼女は頭をさげた。

俺は椅子から立ち上がり手を差し出す。

「大和 奏。奏でいいよ。一応バイオリニストやってる。よろしくね。」

ナリは立ち上がらず振り返り。
「オレは三浦 和也、サラリーマン。よろしくな。」

差し出された手にふわりと重なる手。
ざらついた、傷だらけの、働き者の手。

「松嶋 日和です。へんな名前なんで覚えてもらえるとは思うんですけど、、、顔と一致しないってよく言われます。よろしくお願いします。」

「そんなことないよ、太陽みたいな笑顔。可愛いね。」


サラッと思った事を素直に口にしたら、ナリの張り手が後頭部に直撃した。

「いってぇ‼」
「てめぇは口が軽いんだよ!」


…好きなやつに好きって言えない奴に言われたくないわ。


ぼそりと突っ込む。



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