君のところへあと少し。

2

嫌なお客さんが来る時は、まとめてくるもの。

昼過ぎ。


「ハルちゃ〜ん♪」


呼んでもいなければ来て欲しいとも思わない、河内がニコニコ顔でやってきた。


「河内さん…ヒマなんですか?和也は忙しいって言ってましたけど。」

「忙しい中ハルちゃんの笑顔で元気満タンにして社に戻ろう‼っていう、俺のアイデアだよ〜。三浦のことは、知らん。」


天然なのか、ハルを落とすための演技なのか。


謎が多すぎる人だ。


「そういやぁ三浦、何か悩んでるみたいだったけど、何かあった?」

ホットコーヒーを飲みながら河内が尋ねる。
「悩み?」

「うん。考え事をよくしてるな。ミスしないからいいものの、大きなミスにつながらないか、本気で心配なんだ。」

…まさか。

ここ最近の二人の在り方について、ハルには思い当たることがあった。

「河内さんに何か相談とかしたりします?」
「いや、しないね。三浦は俺を嫌ってるから。相談されたら俺はちゃんと考えてやるんだけどなぁ。」

…男にしかわからない男のこと。
女にしかわからない女のこと。

今、奏には相談出来る状況じゃない。
バイオリンを辞め、日和を妻に迎え実家の跡を継ぐ決心をしたばかりだから。

私にはヒヨちゃんがいるけど、今、ナリには相談する相手がいない。

「河内さん、和也の相談相手になってもらえませんか…」

俯いて。

静かにお願いするハルに河内はため息をついた。

「ハルちゃんさぁ、俺が君のこと好きだってこと忘れてる?」
「図々しいお願いしてるってわかってます。でも、今、和也には同じ男として意見を言ってくれる相手がいないんです… 河内さん、お願いします。」


頭を下げ続けた。

暫くして。
「三浦から相談があったらね。俺からはアクション起こさない。いいね?」

OKしてもらえて本当に嬉しかった。
つい、出来心で。

…河内に抱きついてしまった。

とはいっても、手をとってピョンピョン飛んだだけなんだが。

カランコロンとカウベルの音がして、振り返ると般若のような顔をしたナリが居た。

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