君のところへあと少し。

3

「オレはさ、別にハルを縛りつけようと思ってる訳じゃない。けど、付き合ってる奴がいるのに、他の男に気を許すのはどうかと思う。」


その日の夜。

昼間の一件を不問にするかのように帰っていったナリが、ハルのアパートを訪ねてきた。

そしてお説教。

理由を説明すればいい。
でもお節介って言われたくない。
だから、言い訳があるのに言えない。
ハルは小さくなって俯いたまま、ひたすらお説教を聞いていた。

「ハル、わかってんのか?」
「…はい…。」

最近の気まずさはこういう所から尾をひくように続く。
解決していない事もたくさんあるのに、次々と問題が起こるのだ。

「ハール?」

ナリの声が柔らかくなる。
怒ってるんじゃないよ、だろうね。

「別にオレは怒ってる訳じゃないよ?」

ほら。正解。

その後はなし崩しにエッチになるんだよね。
すでにパターン化されてるな。

ギュッて抱きしめられた。
好き。
このぬくもりも身体も心も。

でも…。今回は黙ってるわけにはいかなかった。

「あのね、ナリ。河内さん、ナリのこと心配してた。大きなミスしなきゃいいけど、って。悩みがあるなら相談にのるのに、って。」

小さな声で、初めてかもしれない反論。

「は?」
「ナリが悩んでるって、河内さんが。それ、私のこと?仕事のこと?」

見上げたナリの表情は苦々しく。

「ナリ、和也、ね?私に相談できないことなら、奏や会社の信用出来る人に聞いたりして。心配なの。和也のことが、心配なの。」

「ハル…お前…」

ぎゅうっと抱きつく。
背中に腕を回しても届かない。
大好きな大好きなナリ。

あなたとずっと一緒に居たいから。

これから先の人生はあなたと共にあると信じてるから。

わだかまりとか、不安とか、納得できないこととか、たくさんあるだろうから。

「ナリが我慢してるのわかってる。
私のこと気遣ってたくさん我慢させてるの、わかってるの。でも、我慢しないで欲しいの。どうしたらいいかとか、具体的な事はわかんないけどっ」

ぎゅうっと抱きしめ返された。

「痛いよ、ナリ、苦しい」
「我慢しなかったら、お前壊れるだろうが。だから、我慢してんだよ。どうすりゃいいかなんてオレにもわかんねぇけど、課長に相談とかしたくねぇ。お前の事好きだって言うあの人に、お前の事話したくない。」

それはくだらないプライド。

「じゃあ、じゃあね、私に話して。どうしたいとかどうするべきかとか」

「わかってるよ。わかってるけどいろんなもんが邪魔して話せない。つまんねぇプライドなんだよ、オレの。」

噛み付くようなキスをして、ハルをくにゃんくにゃんにとろけさせて、ナリは帰って行った。


「もう、嫌だぁ…」

涙も出なかった。


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