君のところへあと少し。
(その16)波留と和也・おまけ。
同棲を始めてこの1年でわかったこと。

ハルは神経質。

ナリはズボラ。

小さなケンカは他愛の無い事がきっかけになる。
片付けしたとかしてないとか。
昨日もそれでケンカして、つまらない週末になってしまった。

日曜日だというのに、一緒に居るのが辛くて、隣市に住む叔母に会いにきた。
もうすぐ年末だから、新年の挨拶に来た方がよかったかなぁ、と言うと元気な顔が見れたらいつだっていいのよ、と叔母さんは笑っていた。


ナリと付き合い始めた年の翌年から、年中無休でやってきた喫茶店を日曜日だけ定休日にした。定着してから1年。

全てはナリとの時間を作るため。

叔母さんといろんな話をしたら喜んでくれた。
遅いくらいなんだから、しっかり彼氏の心を掴みなさい、って。
日曜日定休日だけじゃなく、旅行とか行きたければ休みにしてもいいのよ、と。

思っていたよりお店の収益は右肩上がりだったらしく。

頑張ったご褒美よ、と叔母さんに一冊の通帳を渡された。
売り上げを積み立てた通帳。
最初から私に渡すために作られたもの。
びっくりするほどの預金額。
元来贅沢は好きじゃなかったから、質素な生活が功を創したのかも。

結婚資金にしなさいね、と笑う叔母さんに感謝の言葉を伝えて帰ろうとしていた。

「波留ちゃん、あれ…」

玄関先で向こう側を指差す叔母さんの視線を辿る。

「ナリ…」

日曜日なのにスーツを着た、平日モードのナリがそこに居た。

「ご無沙汰しています、三浦です。少しお時間頂いても宜しいでしょうか?」

えらく畏まってて…変だわ。

「いいわよ、波留ちゃんも。どうぞ。」

今しがた帰ろうとしていた筈なのにな…。
家に上がる様促す叔母さんを止めるナリ。
あれ、なんで?


「いえ、ここで。
川瀬のおばさん、自分はまだまだ未熟者で波留さんを泣かせてしまう事も多々あると思います。
でも、彼女を護りたいと誰よりも思っています。
波留さんと結婚させてください、お願いします。」


頭を下げるナリをぼんやりと見ていた。

「あらあら、まぁ。
確かに私は波留の両親が亡くなってからこの子の親代わりとして波留を見てきたわ。
でもね、三浦君。
波留がいいと言えばそれでいいのよ。
波留が嫌だと言うならそれまでなのよ。

どうなの?波留。私たちに遠慮せず、あなたの人生なんだから、自分で決断しなさい?」


にっこりと笑う叔母さんを見る。

滲んで輪郭がぼやける。

ナリを見る。

昨日夜、ケンカしたじゃない。

「片付け、、しなかったでしょ、私ちゃんと言ったのにっ、、、なのに、私がっ、わたし」

「素直に謝れなくてごめん。
すぐに謝るつもりだったんだ。
でも、意地を張られてオレも意地になって言えなかった。
本当は違う事を言う予定だったんだ。

ちゃんとプロポーズするつもりで、準備してて。

ハルはそんなオレに気付かないのかってなんかヤケになって…

ごめん。

ハル、こんなオレだけど一緒に生きて下さい。


川瀬 波留から三浦 波留になって一生をオレと共に…生きてください。

お願いします。」

声が震えてる。

差し出された右手。
右手も震えてる。

何回目かな、一緒にいてくれ、って言われたの。

「ちゃんと片付けしてよねっ、それと、、、っずっと愛してよね!」

グズグズ泣く私をそっと抱き寄せてくれた大きな身体。

「なんでナリが泣いてるのよぅ」
「ハルが泣かしたんだろうがっ」
「勝手に泣いたんでしょっ」
「やかましいっ泣いてねぇよ!」
「なんなのそれ!」

またまた言い合いをしてしまった。

でもそれは嬉しい嬉しい言い合い。

「年上のクセしてガキ!」
「年下のくせしておっさんからいわれたくないよっ」
「チビ、どんだけ揉んでもデカくなんねぇ貧乳が!」
「ひどっ、貧乳貧乳言わないでよ!気にしてるんだからっ」
「じゃあもう一回言うか?貧乳って」
「キー‼なんなのよもう、この筋肉バカ!」
「バカって言う奴がバカなんだっつーの!」

…。

「それ、私のセリフ‼取らないでよ!」
「言ったもん勝ちだ、ざまぁみろ!」
「自分の発言には責任持ちなさいよ!」
「持つに決まってるだろ!」
「どこが!」
「愛してる!ハル‼」

……!

「何回だって言うぞ、愛してる!愛してるんだ、ハル‼」

なんなのもう…愛してるのバーゲンセールなの?

ぎゅっと抱きついて、広い胸に顔を埋めて。

「知ってる。ずっと知ってる。私も…愛してる。誰よりも愛してる。」

「オレの嫁さんになって?」


ようやくまともに聞いてくれたね。

やっと普通に答えられるよ。

「はい‼」


これから先、ケンカもたくさんするだろうけど。
言いたいこと言い合って、それでも仲良くやっていきたいね。









翌年。

ジューンブライドで花嫁になったハルは、クリスマスイブにふたりの愛に育てられた小さな命を産んだ。

ずっと、一緒にいようね。
ずっと。

ずーっとね。


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