嘘と微熱と甘い罠
「あれ…?」
トイレから戻ると。
さっきまでそこにいた相良の姿はなく。
笠原さんがひとり。
難しい顔をしてケータイの画面を見つめていた。
「…笠原さん?」
「…あ、おかえり」
ハッ、と意識が戻ったかのように。
顔をあげた笠原さん。
何か、あったのかな…。
眉間にシワが寄ってる。
「…相良、は…?」
「あぁ。やり忘れた仕事思い出したって会社に戻った」
ケータイを胸のポケットにしまいながら「相良にしちゃ珍しいよな」と。
笠原さんは薄らと笑った。
それは。
困ったような、気まずいような。
少し眉を下げた笑い方だった。
「笠原さん…」
何があったんだろう。
何が笠原さんにそんな表情をさせるんだろう。
胸の奥がキュッと締め付けられる。
「…もう、出るか…?」
そう言った笠原さんの表情からは。
何を思っているのか、察することはできなかった。