嘘と微熱と甘い罠
相良が手を開くと。
掴んでいた髪がはらりと手から滑り落ち、また肩に落ちる。
それを見届けてから。
今度は頬に手を伸ばし。
頬から顎へのラインをゆっくりと、相良の指先は触れていく。
やがてその指先は唇に辿り着き、そのまま私の唇をなぞった。
「…柔らかいし、気持ちいいな」
左から右、右から左。
上唇も下唇も。
言葉にしたその感触を、確かめるかのようにゆっくりと動く指先に。
私の意識は集中してしまう。
私の身体は。
さっき笠原さんから中途半端に与えられた熱で、ブスブスと不完全燃焼を起こしたまま。
それなのに。
こんな誘うような指先に、ただひたすら耐えなきゃいけないなんて。
…拷問以外の何物でもないでしょう。
何か別のことを考えないと…。
意識を逸らすため、頭の中でかけ算九九を唱え始めたとき。
ため息混じりの呟きが耳に入った。