唇が、覚えてるから

「私の地元……?」

「ああ。だめか?」

「だめじゃないけど、すっごいド田舎だよ?」

「知ってる。そのド田舎が見たいんだって」

「……からかってるの?」


少し膨れて口を尖らせた。


「ここから電車で3時間以上かかる上に、本当に何もない所なんだよ……?」


実際問題、そんな所に行って何が面白いんだろう。

映画や遊園地に行った方が何倍も楽しいと思うのに。


「移動時間だってデートだろ?それにどこへ行くかじゃなくて、誰と行くかが一番重要なんじゃね?」


悪戯っぽく祐樹が笑う。


やばい。

完全にやられた。


私だって、祐樹と一緒にいられるならどこだっていい。


場所なんて関係ない。

隣に、祐樹がいてくれさえすれば……。


そして次の土曜日、祐樹とのデートが決まった。

行き先は、私の地元。
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