唇が、覚えてるから

そのとき。


ザッバァーン……ッ!


不意打ちの大きい波が来て。

私達の足元を濡らした。


体中の熱を切るような冷たさに一瞬思考が途切れて、自然と唇が離れる。


「……っ…」


瞬間、突然恥ずかしさが襲ってそのまま下を向いた。


キス……しちゃった……。


さっきまでが正気じゃなかったのかって聞かれたら分からないけど、今頃になってようやくまともに頭が働き出したみたいで。

思いっきり、焦り始める私。


「……」


祐樹も黙っている。


ねぇ……

今どんな顔してる?


こっそり見上げた祐樹は、下唇を少し噛んでいて。

きっと、私が今してる表情と同じだと思った。


「見んな」


祐樹はそう言うと私の肩を抱いて、自分の胸に引き寄せた。


照れてる。

祐樹が。


「……ん」


今の祐樹、もっと見ていたかったけど、私だって恥ずかしいからおあいこだね。
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