唇が、覚えてるから

超えた夜


それから私達は砂浜に腰を下ろし、しばらく話し続けていた。

おかしいけれど、キスのことには一切触れずに。


風はもう冷たい。

海風だから余計に。

白かった太陽がオレンジ色に変わり、辺りをその色に染めていく。


小学生の頃、こうなったら帰ってきなさいと言われていた太陽に近づいている。

私にとっては、楽しい時間が終わりの合図。


「寮の門限何時?」

「えっと……10時」

「じゃあそろそろ戻らないとヤバイな」


祐樹がスマホを見て言う。

私もスマホを見ると、まだ5時。


そう、まだ5時だ。

小学生ならともかく、今の私達にとっては決して遅い時間じゃない。


けれど───


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