唇が、覚えてるから

「ここからまた長旅か……」

「……」


帰るまでに3時間以上もかかるから、現実問題、もうここを出ないといけない。

祐樹は移動時間だってデートだと言ってくれたけど、行きと帰りじゃ全然違う。

終わりに近づいて行くだけだから。


淋しい。

……まだまだ一緒にいたい。


「帰りたくないな……」


今日の私は自分でもビックリするくらい素直に言葉が出てくる。

また、思わず本音をポツリと漏らしたとき。


「じゃあ帰さない」

「……」


ビックリして顔を上げる。


「帰さない」


もう一度祐樹は言う。


「冗談だよね……?」


目は笑ってないけど、帰さないとか、そんなことあるわけがない。


「じゃあ、琴羽は冗談で言ったのか?」

「そ、そうじゃないけどっ…」


私は首をふる。
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