唇が、覚えてるから

だけど今のは、そう思ったあまり出てしまった心の声だ。


「なら、決まりだ」


祐樹は私の手を取った。


「どっ……どうするの?」

「取りあえず、今晩泊まる所を探さなきゃな」


祐樹は本気なのか、スマホを取り出して指を器用にスライドさせる。

冗談に思えないその行動に、私は慌てた。


「えっ、ちょっと待ってよ」


まさか泊まれるわけ……。


「自分の言葉に責任持てよ。男の前で帰りたくないなんて、どういう意味か分かって言ったんだろ?」

「だってそれはっ……」


楽しい時間が終わるのがイヤで……

つい本音が出ただけで……


「とにかく、今日は帰さないから」


祐樹の目は真剣だ。


帰さないって……。

祐樹、どういうつもりなの……?
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