唇が、覚えてるから
「まぁ、親には悪いことしたよ。高い授業料払って医学部コースに入れてもらったのに……」
それっきり、祐樹は口を閉ざした。
自分で諦めたと言っているのに、ものすごく悔しそうに思えて。
疑問をぶつけるどころか、やっぱりこれ以上、なんて声をかけていいのかわからなかった。
「何もしないから、手だけ握っていいか?」
「……うん」
シーツの上を、祐樹の手が移動してくるのがわかる。
一発で私の手を探り当てた祐樹の手。
上から包み込まれるようにそっと握られた。
「おやすみ」
「うん。おやすみ……」
温かい祐樹の手に守られながら、私はそのまま深い眠りに落ちて行った。