唇が、覚えてるから


数日たっても、中山さんとの関係は良くならなかった。

話に聞いていた通り、息子さんのことを話し続ける中山さんだったけど、ほかの看護師さん達は決して親身に聞いているとは思えなかった。



実習が終わった夕方。

一人になる時間がほしくて、真理と希美には先に帰ってもらった。


中庭のベンチに座り、図書館で借りた脳腫瘍に関する本を広げる。


受け持ちの患者さんのことは、自分で色々勉強しなくてはいけない。

中山さんの場合、かなり重度の症状だから調べることが沢山ある。

真理が眠った後も調べ物をしていて、最近は少し寝不足気味。


矢部さんは、毎日こんな感じなのかなぁ……。

持ち場が離れてしまった矢部さんを懐かしく思う。

『あなたなら、どの科でもやっていけるわ』

相変わらず上から目線でもらった期待に、私は応えられていないかもしれない……。
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