Only One──君は特別な人──


「──もえ、本当にここでいいのか?」

「はい。大丈夫です。荷物も少ないですし。それに実家はここの駅からすぐ近くですから」


そう。今、車を停めているところは駅前のロータリー。

あたしの実家は道路沿いにあるし、車も多いし路駐しにくいからここで降ろしてもらうことにしたのだ。


「じゃあ着いたらすぐに連絡すること」

「はい。分かりました」

「楽しんでこいよ」


そう言って、大野さんはあたしの頭をクシャクシャと撫でて、顔を近づけてきた。

何をしようとしているのかなんてすぐに分かってしまう。

あたしはそれに答えるように目を閉じた。

そして一瞬だけ唇が軽く触れた。


「どうした? もえ? 何か言いたそうな顔してるな」

「何でもないです」

「もう少しキスして欲しかったとか?」

「……」


キスなんてファミレスの駐車場でもコンビニの駐車場でも散々したというのに。

まだ足りないなんて。






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