あの日の恋を、もう一度
私はその場から立ち去り、近くの公園に入る。
寒いのに、本を膝に置き、ブランコを漕ぐ。
頬を掠【かす】めるのは、冷たい空気。
そんなことも気にならないくらいに、ただボーっと。
ボーっと、目の前を見ていた。
そうだ、この公園も彼と――
『…なあ』
『うん?』
『なんで、絢芽は俺のこと名前で呼んでくれないわけ?』
部活帰りに、少しだけいつも寄っていた公園。
私がブランコを漕いで、彼がその前の鉄の囲いに座っていて。
そんなことを彼が聞いたんだっけ。
『…だって恥ずかしいんだもん』
『俺だって絢芽って呼んでるんだからさ』
『…高校生になったらね!』
『…一緒に、行こうな。高校』
『…うん。勿論だよ、河合…』
あの日の約束は、果たされぬまま。
私が約束を破り、挙句【あげく】、別れを告げた。
こんな私を、誰が許してくれるというの?