砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「あたしに酷いことはしないほうがいいわよ。でなきゃ、あの可愛らしい王妃様がどうなってもいいのかしら?」

「どういう意味だ?」

「なんていったかしら? ああ、そうそう、スワイドとかいう馬鹿王子。アレで結構、王妃様のことを狙ってたみたい。母親から、あの娘に手を出したら王子の身分を剥奪する、とか言われて、諦めたんですって」


ドゥルジは歌うように言う。

そのことにはサクルも気づいていた。スワイドのリーンを見る目はオスの目だ。母親の制御と、異母妹という事実、そして最も重要な身分が歯止めをかけていたようだが……。

王子の呼び名を失い、本能だけになったスワイドは間違いなくリーンを襲うだろう。

だからこそ、何がなんでもリーンから引き離し、罠にかけてでも始末してしまいたかった。こんなことになる前に、息の根を止めてしまえばよかったのだ。


おそらくこのドゥルジは、スワイドがやって来る以前から砂漠の宮殿付近を徘徊していたに違いない。

リーンに夢中になりすぎて、警戒を怠ったサクルの失態だ。


「その馬鹿王子様と可愛い王妃様が一緒に消えて……どれくらい経ったかしら? 殺す殺すとうるさかったけど、本当はヤリたくて仕方なかったみたい。喜び勇んで岩の裂け目から中に入っていったわ。早く助けにいってあげないとぉ……」


ふふふ、と笑うドゥルジの前に飛び出したのはアミーンだった。


「陛下、この悪魔は私が引き受けます。一刻も早く、正妃様を!」

「あら、それでいいの……国王サクル様ぁ」


ドゥルジに名前を呼ばれたとき、初めてサクルの表情が変わった。


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