砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
オアシスのある大きな岩の反対側に枯れ木がひとつ。その枯れ木は細い幹を支えにして、かろうじて砂の上に立っていた。

その木の影に隠れるように一羽の烏(グラーブ)がいる。

魔力はほとんど失った。もう人の形を作ることは不可能だ。だが、闇に紛れて地獄まで飛んでいくくらいならできる。

ドゥルジは万一に備えて、ほんのわずか烏の中に意識を残しておいたのだ。


そのおかげで命を繋ぐことができる。サクルの名前を持って帰れば、必ずや魔王はふたたび魔力を授けてくれるだろう。

ドゥルジは、サクルの関心が自分から王妃に移った気配を察し、羽を広げ飛び立とうとした。


そのとき――。


黒いドゥルジの身体を枯れ木に縫いつけるように、一本の剣が小さな烏を貫いた。


「お前だな、シャーヒーン殿を傷つけた悪魔め!」


アミーンである。

ドゥルジの口から出るのはギーギーという耳障りな鳴き声のみ。


「王命により、処分する!」


アミーンはそう発すると、烏の身体をふたつに切り裂いた。心臓を裂かれ、ドゥルジの仮の身体はすべての魔力を失い事切れたのである。


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