砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
彼は上半身に何も身に着けず、むき出しの肩が月光に妖しく艶めく。

隆起した筋肉をわずかに上下させ、先ほど同様、地中に刺した剣に向かって静かに……それでいて爆発しそうなほどの強い力を注ぎ込んでいる。


彼の口から流れるような呪文が聞こえ――。


『シャッワール、ズ・ル=カァダ……ズ・ル=ヒッジャ』


「ま、待って、王妃は? 王妃がどうなったか聞かなくてもいいの?」


ドゥルジは命乞いをするように、いやらしい笑みを浮かべる。


「それがどうした? ドゥルジよ、この私を怒らせた罪、とくと思い知れ」


サクルの目がわずかに細くなり金色に光った。ドゥルジを縛る水に力が加わり、それはしだいに温度を上げる。


「あたしを殺したら……あ、あ、ぎゃあぁぁぁーっ!!」


ドゥルジの身体は溶けるように押し潰されていく。

サクルはその力を弱めることなく、剣先から地中に、そして水脈を通じドゥルジの身体に流し込んだ。

やがて、辺りに漂う腐臭だけになったとき、サクルはようやくその集中を解き――彼はニヤリと笑った。


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