砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
ふたたび、水音が聞こえた。

身体の下にあるのは柔らかな布。先ほど目を覚ましたときと同じ寝台の上に寝かされている感覚に、リーンは混乱した。


(さっきのことは……夢だったの? でも、なんておぞましい夢)


身体を震わせながら、リーンは薄らと目を開けた……つもりだった。

しかし、周囲は深遠の闇に包まれ、目の前に刃物を突きつけられていてもわからないくらいだ。


近くに水の気配を感じる。それはオアシスの水に違いない。

洞窟内の灯りがすべて消されているようだが、まだ、自分がオアシスの中にいることを知り、リーンは少しだけホッとした。


だが、それは束の間の安堵だった。

彼女が起き上がろうとしたそのとき、両手首を縛られていることに気づく。それだけではない。白い夜着を着ていたはずが、今は何も身に着けていないのだ。

腰を隠すものすらなく、リーンは、自分がまだ夢の中にいることを願った。


しかし、その願いは無情にも聞き届けられず……。

リーンは背後に誰かの気配を感じ、次の瞬間、寝台の上に組み伏せられた。


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