砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「“砂漠の舟”ではないのか?」

「いえ、遠くから、サクルさまを……陛下を呼ぶようなお声が……」

「私の名前だと、そんな……あ」

「ど、どうされました!?」


サクルが口を開いたままでいると、リーンはビックリしたように尋ねた。 



彼は寝台から下り、腰布を手早く巻いた。暗闇の中、迷うことなく出入り口に向かって歩く。

そして、片手で垂れ下がったカーテンを押し上げた。



「……陛下……陛下。お願いでございます。もうそろそろ、砂漠の宮殿に戻りたいのですが……陛下ぁ……」


真っ暗な中、壁際から泣くような声が聞こえる。

アミーンだ。

外に放置もできず、かといってテントに入れることもできない。彼はサクルがリーンと戯れる間中、オアシスの隅に待たされていた。


おそらく、アミーンのいる場所までリーンの啼き声は聞こえたであろう。

テントの中が静かになったので、恐る恐る声をかけ始めたに違いない。


「陛下ぁ……あの……陛下ぁぁ」


気の毒なことをした、と思う反面、苦笑を禁じえないサクルだった。


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