砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
何を怒っているのか、そもそも何の同意を求められたのか、リーンにはさっぱりわからない。


「あ、あの……申し訳ございません。今一度、お聞かせ願えましたら……」


リーンが小さな声で正直に返事をすると、


「正妃を迎えたばかりの私に、新たな妻は必要ない。レイラーは即刻国に戻り、バスィール大公の命に従うがよい。私に対する無礼は、正妃に免じて許す。ただ、アミーンは返すわけにはいかん。生涯、我がもとで働くことを命ずる」


サクルはそこで言葉を切ると、「リーン、それに不服はないな」と続けた。


「お待ちください。お姉さま……いえ、正妃さま、どうかお願いでございます! 何卒、お口添えを!」


レイラーはリーンに敬称を付け、泣くように叫んだ。

だが、玉座の横に控えたカリム・アリーから叱責が飛ぶ。


「無礼者! 王の許可も得ず、発言してはならん!」


カリム・アリーの言葉に、周囲の衛兵がレイラーを取り囲むように動いた。

すると、レイラーは大げさなほど声を張り上げ、泣き始め……リーンはなんと答えるか悩んでしまう。

幼い頃からの頭痛腹痛もほとんどが嘘だった。だがごく稀に本物の発熱が混じっていたりもする。


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