砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「そうか――」


サクルは先ほどとは打って変わって楽しそうに口元を歪め、金色の瞳を煌かせた。


「スワイド王子も、しばらくこの宮殿に滞在を希望していると聞いたが」

「はっ。かの有名な砂漠の宮殿に入場を許される機会など、そうそうあるものではございませんので。壮大な景色と華麗な宮殿、そして、美しい侍女たちに心を奪われてしまいました」


スワイドは聞こえのよい言葉を呟きつつ、サクルに向かって頭を下げる。


(噂に聞くスワイドさまと随分違うのね。とてもプライドの高い方と聞いたのに。それとも、狂王と呼ばれるサクルさまの前だから?)


そこはかとなく不安を覚えるリーンを尻目に、サクルは吹っ切れたような声を上げた。


「よかろう。スワイド王子の滞在を許す。そしてレイラー王女だが……我が国に留め置くとは、婚姻を意味しておると考えてよいのだな」

「はい! 陛下に最善の策を講じて頂けましたら」


スワイドの声に光が射したように明るくなり、同時にレイラーの頬もパッと華やいだ。


「わかった、では、レイラー王女に命じる――」


サクルの言葉にリーンの身体に緊張が走った。

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