砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「あの愚か者は、私に嘘がばれておらぬと信じているらしい。まあ、どうせ砂漠の田舎者とでも思っているのだろう」

「しかし陛下、大公は保護を願い出られたのでは? そんな王子に剣を持たせ、宮殿内を自由にさせるなど……」


カリム・アリーはハッとした顔でサクルを見た。


東の大国にはスワイドのほうからレイラーの縁談を持ち込んだ。

自ら使者と名乗り、国境付近の町で会見を求めた。そのとき彼は、妹の輿入れと同時に兄から大公位を簒奪する計画を話し、東の大国に後ろ盾を頼んだのだ。

だが間が悪かった。

極秘となっているが、現在、大国の王は病の床に伏している。王太子はいるものの、母の違う兄弟が複数人いるという面倒な事態だ。

王位をめぐって争いが勃発するかもしれない。

そんなとき、戦力にもならない小国など相手にしている場合ではないだろう。ましてや、クアルン王国の友好国であるバスィール公国の後継者争いに力を貸し、内戦で疲弊したところをクアルン王に攻め込まれては目も当てられない。


東の大国の代表はスワイドの本音を知るなり、話し合いを拒否した。

怒ったスワイドは代表を殺害してバスィールに逃げ帰ったのである。


スワイドは大公に散々言い訳をしたというが、生き残った者の証言で彼は投獄されそうになる。

そこからさらに逃げ出し、砂漠の真ん中で新婚生活を楽しんでいるクアルン王の下に駆け込んだのだった。


通常の手段であれば、スワイドの到着より早くサクルが情報を知るのは不可能というもの。

ましてや東の大国とクアルンに国交はない。


スワイドはサクルの力を甘く見ていた。


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