砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「バラカート、マジドともいささか問題がある。能力的にはマシなはずのスワイドだが、気性がお話にならん。奴はすでに自らの首に縄をかけている。背中を押してやるのは親切というものだろう」

「しかし、正妃様がなんと言われますか」

「だからこんな面倒なことをしているのだ。私に従うと約束させたが……」


レイラーほど身近な存在ではないにせよ、血の繋がった兄だと泣き始めるかもしれない。本来なら何者にも意見されるつもりはないが、リーンは別だ。


「目の前で罪を犯せば、私が処罰することもやむなしと納得するだろう。スワイドには見張りをつけてある。そしてリーンの傍にはシャーヒーンを置いた。先ほどの報告では、侍女に手を出そうとして失敗したようだ。“果実酒(アラック)”も持ち込み、飲んでいるらしい。今夜中に片づきそうだな」

「次はバラカート王子の廃嫡ですか?」


ようやくカリム・アリーもサクルの思惑を悟ったようだ。


「三人の王子が退場すれば、レイラーの出番だ。女は大公にはなれんから、レイラーの夫がその座に就くだろう。その夫がクアルン王の兄とあれば……誰も不満は言うまい」

「それ以前に、シーリーン王女の夫である陛下ご自身が兼任されてはいかがですか?」

「馬鹿者。それでは事実上のバスィール併合ではないか」


バスィールはいかに小国といえども、独立国であることに意味がある。

それだけではない。リーンでは大公妃の怨嗟を買い、公国内部に敵を作る可能性が出てくる。だがレイラーなら大公妃も受け入れるだろう。


「無理にとは言わん。だが、東の大国に乗り込む足掛かりになることは確かだ」

「……」


ついにカリム・アリーは何も言葉にしなくなってしまった。

それは彼が本気で考え始めた証拠だった。


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