砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
きっちりと整えられていたスワイドの髪が少し乱れている。服装も、王の前とは雰囲気が違っていた。

彼はビックリしたような顔をして、


「おやおや。これはこれは、いつの間にか我が国の王女になられた、クアルンの正妃様ではございませんか」


わざとらしい言葉に、リーンは嫌なものを感じる。


「スワイド王子、ここは客人の立ち入れる場所ではありません。すぐさま引き返してください。王に知られたら、とんでもないことになります」


シャーヒーンの背後に隠れたまま、リーンはスワイドに告げた。

ところが、彼はそれをはったりと受け取ったようだ。途端に態度を変え、不遜な目つきでリーンを見た。


「フン。あの狂王を虜にするような娘とは思わなかったな。たかだか侍女の私生児が、偉くなったものだ」


このスワイドもリーンのことを妹とは認めていなかった。

それは悲しかったが、レイラーやスワイドの立場になれば当然なのかもしれない。


「レイラーに聞いたぞ。お前は本気で信じているらしいが、父上がお前に実子と認める手紙を書いたのは、王に書かされたからだ。可愛いひとり娘を人質に取られては逆らえまい」


それはリーンも最初に考えたことだった。だがサクルの説明を聞く限り、バスィール大公のリーン母子に対する態度はうなずけるものばかりだ。

第一、王命を振りかざしたのだとしたら、それをリーンに偽る理由などない。

サクルなら、正妃にするため王女とした、そのひと言で済ませるに違いない。


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