砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
そこに、王太后付きの侍女である経験豊かなマルヤムが真面目な顔で口を挟む。


「まあまあ、国王様と正妃様が仲むつまじいのはおめでたいこと。ですが、陛下。正妃様のお身体も充分にいたわって差し上げてくださいませ。無茶はいけません。何ごとも、ほどほどがよろしいのですよ」

「わかっておる。だからこうして、今も抱えているのではないか」


サクルは拗ねた少年のような顔をして言い返した。

もともとが、マルヤムはサクルの乳母だった。幼いころを知られている分、どうもやりにくいのだろう。


「あ、あの、陛下……そんなに長い間不在にするなら、レイラー王女に挨拶をして行きたいのですが」


リーンは小さな声で頼むが、途端にサクルの顔が気色ばむ。


「兄上さまのこともございます。彼女も辛く、心細い思いをしているでしょう。短い時間でよいのです。あの……」

「それは不可能だ」

「どうしてですか? レイラー王女が罪を犯したわけではありません。どうか……」

「そうではない」


サクルはきっぱり言い切ったあと、幼子に話して聞かせるようにゆっくりと言葉にした。


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