砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「リーン、カリム・アリーがいないのはどうしてだか気づかぬか? スワイドの従者たちと共に、レイラーを伴い、バスィールに赴いたからだ」

「アリーどのが?」

「そうだ。我が命により、レイラーの夫となることを報告するために同行した」


サクルが本気だったことにリーンは驚く。


「で、でも、アリーどのに決められた方がいたとしたら?」

「そのような者はおらぬ。それに――王命だ」


王命のひと言にリーンは息を飲んだ。


このクアルンに生きる者で、王命に逆らう者はいないと聞く。

逆らう者は殺される。そんな噂があるが真実ではないだろう。サクルは厳しいが冷たい人間ではない。だが王を前にして、逆らう気持ちになどなれないことも事実。


「では……もう、レイラー王女には会えないのですね」


我がまま放題のレイラーだった。

少し、ほんの少しだけホッとしたことも嘘ではない。だが、二度と会えないとなると……。


「何を言う。レイラーは我が側近であり、異母兄のカリム・アリーに嫁ぐのだぞ。私が王都に戻れば、奴も戻る。当然、妻も同行するだろう。会いたくば、ハーレムに呼べばよい。お前は正妃なのだ。誰もがお前の機嫌を伺い、言いなりになる。ただし、臣下の妻に敬称など付けることは許さん」


よかったと思う反面、本当によかったのだろうか、と不安も覚える。

そして、あのレイラーが王の異母兄とはいえ、黙って単なる側近の妻になるだろうか、と考えるリーンだった。


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