砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「先ほどのお礼を申し上げたくて、シャーヒーン殿を探しておりました」


アミーンはくるりと背中を向け、直立不動で言葉を続ける。


「右肩を斬られ、動けないところをあなたに助けていただきました。スワイド殿下に体当たりをしてくださらなければ、私は命を落としていたでしょう。本当にありがとうございました」


シャーヒーンは驚いた。

助けてもらったのは自分だと思っていたからだ。体ごと盾にして彼女を救おうとした。礼を告げたいが、白鷹に姿を変えたところを見られては、もう近寄っては来ないと思っていた。

シャーヒーンはゆっくりとアミーンに近づき、彼の背中に手を添える。

その瞬間、全身がビクッと震えた。彼の大げさな反応にシャーヒーンは目を見開く。

傷の治療をしたせいだろう。今は衛兵の制服は着ておらず、クアルン特有の白いトーブと下穿きだけ身に着けているようだ。


――あなたは私が怖くないのですか?


シャーヒーンは心で問いかけた。

アミーンはハッとした様子で、


「ま、まさか……あなたはとても美しい女性です。白き鷹の姿も……それに、今も」


振り向きたいのを懸命に我慢する素振りが可愛らしく、シャーヒーンの中に不思議な気持ちが沸き立つ。


――では、守っていただいたお礼をしたいのですが、受け取ってくださいますか?


「え? そんな、それは逆です。私のほうがお礼を……」


アミーンの反論をシャーヒーンは素早く動き、唇で遮った。


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