砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
白き羽を充分にぬるま湯に浸し、砂埃を落としたあと、シャーヒーンは意識を集中して人型に戻った。

白い髪が風に舞ったかのようにふわりと広がり、ゆっくりと落ちついていく。


直後、視線を感じシャーヒーンは振り返った。


「あ……申し訳ありません。覗くつもりは……」


頬を染めてアミーンが立っていた。


最初、バスィールの王女、それもクアルン国王の花嫁を誘惑し連れ去るなど、よほど女の扱いに慣れた男だろうと考えていた。

だが、アミーンは予想外にも実にうぶな男だった。


このアミーンはもともとスワイドの近くに仕えていた兵士。

例の“果実酒”を飲ませ、罠に嵌めるなら手ごろな男だとレイラーに教えたのもスワイドだった。

スワイドはレイラーを利用して、クアルンとの関係を悪化させようと企んだ。国内外が安定すれば、凡庸な第一王子バラカートでも大公が務まるといった声を耳にしたせいだ。

レイラーが問題を起こして近隣諸国と波風を立てれば、次期大公には武力と知力に長けた第三王子スワイドが相応しいと言われる……そう思ったに違いない。


なんと傍迷惑な愚かさの持ち主だろう。

アミーンはその愚か者たちの犠牲になった。

そして彼には、リーンに似た純粋さが垣間見える。王が罪を免じたのもそういった理由だとシャーヒーンは思っていた。


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