砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
無理をおして報告に向かおうとしたシャーヒーンを押し止め、アミーンがひとりでやって来たようだ。


「だが、シャーヒーンほどの者が不覚を取るとはな……」

「一度完全に気配が消えたのです。それで、シャーヒーン殿も逃がしたと思われて……。そこをふいに背後から襲われ、羽を傷つけられ……」


アミーンは思い出すのがよほど苦痛なのか、顔を歪めながら報告する。


「なるほど……。どうやら、シャーヒーンの失態には別の理由もあるようだ」


サクルの探るような低い声に、アミーンは口を閉じた。

そのまま、何も言わない、のではなく、言えなくなったらしい。ひざまずいたまま、奥歯を噛み締めカタカタと震えている。

だが、今はそんなことを問い質している場合ではない。


「オアシスに戻る。アミーン、動けるな」

「はっ、はい! しかし、私などがオアシスに同行してもよろしいのでしょうか?」

「時間を食うのを承知で救ったのだ。それに値する働きはしてもらうぞ」


アミーンは話題がシャーヒーンから逸れてホッとしたようだ。


「なんでもお申し付けください! いつでも陛下の盾となる覚悟はできております!」


忠義者らしく叫ぶが、その答えにサクルは意地の悪い笑みを浮かべ……。


「よかろう。おまえが見事に役目を果たしたときは、その骨をシャーヒーンのもとに届けてやろう」


ふたたび青ざめるアミーンだった。


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