①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『新しい運命』




「……当然ですが、瑞町さんも来ていたんですね」


「灰川さん」


「なんですか? その意外そうな顔は。僕が友人の墓参りにくることになにか疑問でも?」


「いえ、そんなことないですよ」


 私は微笑みながら、花を添え手を合わせる灰川さんを見つめた。


「……今回は、岡田さんの力がなければ解決することができなかった。……あの時、勇敢に立ち向かっていった彼の行動が、最後のピースを紡いでくれたんです」


「……なにをそんなに俯いているんですか?」


 いつもの、掴みどころのない、灰のような彼ではない。

 飄々とした態度はなく、静かに決意に満ちた面持ちだった。


「今回の件で、僕は己の無力を痛感しました。これからどうしたものか。こうして彼という犠牲をはらってしまうなんて、心霊相談失格ですよ」


 彼は拳を震わせながらそう零すように呟いた。

 彼の灼かれた左腕は、まだあの黒いアザが残ったままだ。

 もしかしたら、私と違って完治することはないのかもしれない。
 
 ――この人もまた、私の知らないところで多くのものを背負っているのだろうか。


 私は結局、最初から最後まで、玲二とこの人に支えられっぱなしだった。


「……失ったものもあれば、守れたものもあったじゃないですか。灰川さんのせいではありません。思いつめないでください、そもそもこれは私の――」



 彼はそっと私の口の前に手をかざす。


「――おっと、そこから先は言わないで。わかってますよ、これからどうするかが大事なんだってことはね」


 そう言うと、彼はブラック無糖の缶コーヒーを墓前にポツリと置く。

 すると、彼は立ち上がりゆっくりと歩き出す。

 そのまま夕日に向かって彼がしばらく進んだところで、思い出したようにその場で立ち止まり、振り返りながら私に言った。



「――そうそう。まだひとつ伝えてないことがありました」


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