神様修行はじめます! 其の三
やがて、彼女の形は完全に崩れ落ち、色も、魂も、すべてが抜け落ちた。

彼女がいた場所に、小さな砂山。

これが、一人の女性の証。

数奇な人生に翻弄され、罪を犯し、罪を贖い、癒された人。

そして最期に、望んだ愛を得て救われた人。


夫の指先が、その砂に触れている。

まるで、たまきさんと触れ合うように。

それは幻影でしかない存在だけれど、あたしは信じる。

ふたりは、やっと巡り会えたんだ。

そして帰った。

どこかへ。

きっとふたりが望んだ、どこかの場所へ。


「雛型、いや、たまきよ。やっと逝けたか・・・」


絹糸が静かに語りかける。


「よくぞ耐えた。もうよい。何処なりと望む場所へ行くがよいわ。お前達はもう、二度と・・・」


その言葉の続きを、絹糸は口にしなかった。

ただ黙って、いつまでも砂と幻影を見つめていた。

もの言わぬ青白い背中は、とても物悲しくて・・・。


あぁ、そうだ。
永世おばあ様が亡くなった時も、こんな風だった。

こんな風に絹糸は、じっと何かに耐えていた。

絹糸にとっても、千年に渡る因果が、ようやく・・・。


不意に、まるで絹糸の言葉に応えるように、夫の幻影が掻き消えた。

そして砂の山が風に吹かれ、どこかへ飛んでいく。


どこへ?

・・・ううん。

いいんだ。あたし達は知らなくていい。

どこへなりと、行けばいい。


いいんだ。


もう、いいんだよ・・・・・。



あたしも、門川君も、絹糸も、暗闇の中、ふたりを見送る。


何処とも知らぬ道行きに、手を携えて去っていくふたりを。


ふたりを・・・・・・。



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