神様修行はじめます! 其の三
「あー、最高! このイモようかん美味しい!」

「当然ですわ。我が権田原秘伝の、イモようかんですもの」

「ちょっと里緒、あんたひとりで何個食べてるのよっ」

「塔子さんこそ独り占めしないでよ! ずるい!」

「なによそれ! まるであたしが食い意地張ってるみたいじゃない!」

「実際、張りまくってるじゃん!」

「あんたにだけは言われたくないわよ!」

「お三方! うるさいですよ! 静かにしてください!」


書類の束を文机にバシッと叩き付け、凍雨君が怒鳴った。


「ぼくたちは大切な執務の最中なんですよ!? 見て分からないんですか!?」


・・・はあ~い。すみまっせえぇ~ん。


あたしとお岩さんと塔子さんは、背中を丸めてボソボソとようかんを咀嚼する。

凍雨君は完全回復して、この通り元気そのもの。

若さだねぇ。後遺症もまったく無いようだし、ほんとに良かった。

しかも凍雨君ってば、メキメキ図太くなっちゃった。

なにしろ一度は、三途の川を渡りかけたもんね。

あれかね、骨折した骨は、前よりもっと丈夫になるってやつ。


『あっちのお花畑を見ちゃったらもう、この世に怖いものはありません』


って彼自身、鼻息も荒く宣言してたし。


セバスチャンさんがクスクス笑ってる横では、門川君がいつも通り、我関せずの無表情でスラスラと筆を走らせながら、執務に勤しんでいた。


ここは門川屋敷内、門川君の私室。

男三人は、今回の騒動で溜まりまくった仕事をセッセと片付けている。

あたし達は縁側で、お岩さん持参のイモ羊羹を試食中。

いや、マジでうまいわこれ。


絹糸も縁側で丸くなり、ノーンビリひなたぼっこ。

すっかり復調したしま子は、あたし達のために緑茶をいれてくれていた。


平穏な時間。

この世界は落ち着きを取り戻し、以前と同じように皆が暮らしている。

座り女の機能が、以前どおり復活したから。

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