Loneliness



「そうか。それなら尚の事。」



そう言いながら
男が懐から取り出した物を見て
村人達は息を飲んだ。



それは、金貨が沢山 詰まった麻袋だった。



「国家機密が在る故 多くは語れないが、
一般市民からスパイに なる場合、
その者の家族には食うに困らぬ程度の
金額を支給する事に なっている。
大切な家族を、差し出すのだからな。」



男は薄く笑いながら、
麻袋を ゆらゆらと揺らした。



「まあ、世間に知られると口減らしの為に
子供を売る親が増えるからな。」



そうして彼は、僕の前に跪いた。



「先も言ったように皇帝命令だ。
意味は解るね?」


「はい。」



幼い僕でも知っている。
皇帝命令を断れば、
自分も、家族も殺される事は。



「さあ。」



男が差し出した麻袋を見て、
それ迄 地面に崩れ落ちて泣いていた
母さんが、不意に泣き止んだ。



漸く差し出されている金額に
気付いたのだろう。
そして僕が1つ頷けば、
毎年 生活費が支給されるのは、
男の言葉の裏から取れた。



母さんの瞳に一瞬 過った光。



それを僕は、決して忘れないだろう。



彼女の瞳は、
1人の息子と お金を天秤に掛ける、
母では無く、1人の女の瞳を していた。



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