羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 その言葉に、朱尾の瞳が僅かに揺れる。


「どういうこった?」

「わざと周囲から非難されるような態度とったり、周りと対立したりするでしょ。
昔はそんな人じゃなかった。

……ねえ、なんでそんな偽悪的なことしてるの?」


 青木に問われて、朱尾は唇を引き結んだまま瞠若する。

 青木は普段、物静かな女だ。

 だがそんな青木が声を振り絞っているのに、朱尾は心底驚いているようであった。


「……“大人”ってのは、理不尽でなあ」


 しみじみと、朱尾は口を切る。


「どれだけ正当な理由であろうと、そいつが犯した事が“悪事”であれば、そいつが持つ“理由”は所詮“言い訳”にしかならねえ。

大人からすりゃあ、どんなに正しい理由でも“言い訳”になるんだよ。
理不尽なことに」


 朱尾を愚痴を飛ばし出さんばかりの口ぶりである。

 そんなことを言ってしまっては、朱尾も青木もすでに成人した“大人”ではないか。

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、青木は眉を垂らす。


「……だから、どうせと思って投げやりな態度をとってるの?」

 
 朱尾は黙ったままであった。


「私に冷たい理由も、それ……?」


 青木は、まるでそちらの方が本音のような深刻な声色で言った。


 朱尾の冷えた視線は、ゆっくりと青木からそれて行った。
 














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