羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




 言われて、酒童は押し黙る。

 無人の拠点入口で、2人はしばらく、冷気を孕んだ冷たい風に吹きさらされていた。


「……髪、切ったのかい」


 なんの前触れもなく天野田は酒童に詰め寄って、以前より短く男前な前髪に触れた。

 甘やかな手つきの天野田が触ると、なんだか官能的である。


「ん……」


 酒童は戸惑いつつもうなづく。

 さきほどまで盛大に毒を吐いていたとは思えぬほど、天野田の手は優しげだ。


「いちど鏡の前に立って自分の顔をよく見てみるといい。
化け物は、そんなにいい顔はしていないよ」


 天野田は今度こそ踵を返すと、そっと酒童の手を握って拠点の入り口へと導いた。


「ほんとに大丈夫かな」


 懸念せずにはいられない酒童に、天野田は「私を信じなよ」と言い聞かす。


「その髪型、すごく似合ってる。
すごく、イケメンな人間だと思う」


 人間。

 それをことさらに強調して、天野田は拠点へと酒童を引きずりこんでいった。










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