羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
羅刹隊員の半分は、仕事までのわずかな時間を大部屋に集まって過ごす。
天野田はよりによって、酒童をその大部屋へと連れこんだのだった。
そして、
「酒童くんが帰ったぞ!」
と声を張り上げた。
ぎょっとして酒童が肩を跳ねあげる。
その一方、天野田の声が響いた大部屋は、がたりがたりと椅子を立つ音で溢れかえった。
「酒童さん!」
真っ先に駆けつけたのは茨であった。
後ろでひとつに括られた茶髪が、柴犬の尻尾の如く左右に揺れる。
「怪我は完治したんですか⁉
胃に穴とかあいてませんか⁉」
「胃に穴があくっていうのは、ストレスの話じゃねえかな……?」
茨は本気で言っているようだが、手足に大怪我を負っても、その時に胃に穴はあきはしない。
呆気にとられる酒童の前までやってきた茨は、そこで袖で目をこすり、どうしてか落涙した。
「班長が鬼のような形相で酒童さんを連れてったから、俺あ、ほんとに酒童さん絞め殺されちまうのかと思いましたよ」
茨はおいおいと泣き出さんばかりの勢いである。
そんな茨を真摯に見ていると、酒童は心底から、仕事に出られなかったことを申し訳なくおもった。
ここまで心配をかけてしまったとなると、罪悪感さえ湧いてくる。
所持していたポケットティッシュで鼻をかむ茨に続き、矢継ぎ早に榊が歩み出た。