羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「そう言うと思って、うがい薬を買っておいたぞ」
「いつになく用意がよろしいですね。
加持班長?」
鬼門は髪を束ね、鋭敏な目つきで加持を見やる。
―――鬼門は、もともと加持が担当する班の班員であった。
だから加持が地区長に昇進しても、鬼門はいまだに、裏で加持を「班長」と呼んでいる。
「お前が私の部屋に泊まった時は、だいたいそうだからな」
「酒を用意しなければよい話です」
「いつもよく飲むのはお前だろう」
もっともだ。
カラになっている酎ハイのほとんどは、鬼門が飲んだものである。
羅刹は代謝がいいのか、缶酎ハイを4本や5本を飲み干したくらいで二日酔いになったりはしない。
「……“レイジ”の話になると、どうも、自棄になってしまうものでしてね」
鬼門は立ち上がり、食器棚から取り出したコップに水を注ぐや、ぐっと飲み干した。
「お前の“レイジ”への執着心は、まだ冷めないらしいな。
まるで子供を愛でる母親だ」
「母親?」
鬼門は剣呑な顔つきになる。
「それは、男の私に言っているのですか?」
鬼門は、自身の女のような美貌を気にしているらしい。
加持は「冗談だ」とだけ言い、重たそうな上半身を起こす。