羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
喉から声を絞り出し、茨は嗚咽する。
「頑張ってる酒童さんの気持ちも知らないで……ほんっと、すいません」
首を垂れて謝る茨の肩を、酒童はそっと叩く。
「そんなこと、不可抗力だからめそめそしたって仕方ねえよ。
俺だって、できることなら人間でいてえし、自らバケモンになろうなんて思わないさ」
「……はい……」
ティッシュペーパーをまた一枚取り、茨は鼻をかんだ。
「っあ"あー……。久々に号泣した」
使用後のティッシュペーパー丸める茨に、酒童はやるせない思いになる。
自分がしっかりしていなかったせいで、また仲間に余計な心配をかけてしまった。
遺伝子や血の問題だから、抗って敵うものではない。
しかし気を抜いていた自分にも責任は多々ある。
(この首飾り以外に、血の力をどうにかする方法があるならなあ)
酒童は首から垂らされた玉鋼製の葉を指先で突く。
もちろん、完全にこの力を封じるのが無理だと言うことは、もうわかった。
だから暗中模索をするつもりもない。
しかし、茨を見ていると、人間であることをなかば放棄した自分がひどく劣って見える。
茨はまだ心の何処かでは、人間の酒童を探しているのかもしれない。
化け物を身の内に秘めた酒童ではなく。
「……いやあ、なんかすみません。
急にべそかいて。
あれは、ただ、自分に悔しくなった岳ですから。今のは忘れてください」
茨は、すくっと立ち上がるや、快男児さながらの顔で眉を上げ、にっと笑んだ。
「俺もそろそろ、今の酒童さんを受け入れなきゃな……」
そう呟き、茨は爆弾に酷似した握り飯に食らいついた。
わざと酒童に元気そうなところを見せるかのように、だ。
(ごめん、茨……)
俺は。
人にはなれない。
なぜなら、半分鬼として生まれてしまったのだから。
そうして生きるしかないのだ。
酒童はうつむいた。
今だって、そうなのだ。
決意はしたが、自分は、人間であり続けることを放棄したまま、陽頼や仲間たちのそばにいる。
せめて危険を避けるため、自分が苦を背負うくらいしか、対処法がない。
酒童は「ん……」とだけ返し、茨の向かいの席に腰を下ろした。