羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「こたび、おのれらに集まって貰うたのは他でもない。
鬼と人との交雑……その最初の種である酒童嶺子を、妖の側か、人の側か、どちらに委ねるかを討論する」
空亡、および無数の妖たちの視線が、槍に変わって酒童に突き刺さる。
紛れもない、敵意の視線だ。
酒童にだって分かる。
「酒童嶺子は先日、24年間ものあいだ眠っていた鬼の力に目醒めた。
同時に鬼にある元来の本能も覚醒した。
ーーそこまでは、己ら羅刹も知っておろうな」
空亡の問いかけに、加持は顎をしゃくる。
「はい」
「もしこの酒童なる男が人のまま鬼に目覚めることがなくば、我等もそやつを放っておくつもりであった。
しかし半人半鬼となった今は違う。
そやつは人と妖にとっての脅威となりうるのだ」
空亡は顔の半分を覆っていた髪を耳にかける。
「鬼と人の交雑となれば、つまりは遺伝子汚染になる。
かてて加えて、妖の遅鈍さをなくしつつ、妖特有のの怪力を兼ね揃えた人間は、他の妖よりも軍を抜いて秀でているのだ。
……かつて京を脅かした“酒呑童子”も、そうだ」
空亡の色のないくすんだ瞳が、数畳は離れた場所にいる酒童の顔をうつす。
「半妖の存在は、人だけにあらず我ら妖の存在をも脅かす。
我々としては、その男を妖の律令のもと、早急に処分したい次第だ」