羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
空亡の言葉には、刃がある。
心に突き刺さる棘はないが、体の奥底を凍らせる刃が、だ。
酒童は戦慄しつつも、肩を竦めてじっと話を聞く。
「我ら妖からは以上だ。
酒童嶺子を妖の側に引き渡し、即刻処分する。
それに異論はあるか?」
「はい」
空亡の眼前に座した加持が、鬼門を見やる。
加持の視線を受けた鬼門はうなづくと、あたかも授業中に挙手でもするかのように手を挙げる。
「酒童嶺子は、たしかに貴方がたたちからすれば、邪魔者以外の何者でもないかもしれません。
しかし我々人間、羅刹からして見れば、酒童嶺子という人材は稀代の逸材なのです。
彼を殺されてしまっては、この地区の羅刹としては、これ以上にない損失になります」
鬼門は淡々と述べる。
「それに我々には、人権というものがあります。
死罪に値する罪を犯したならともかく、罪なき者の命を、その人の同意なく奪うことは人権にそぐわない」
「鬼に人権、か」
空亡は空虚な眼差しで息をこぼす。