羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「そやつは人の血が混じっているといえど、鬼ぞ。
いや、むしろ人であるからこそ、鬼の血に支配されやすく、本能がままに動きやすいのではないか?」
「それは彼次第です」
「もし人喰いの本能に目覚めたならば、取り返しのつかぬ事になるぞ」
「承知の上での、判断です」
「……愚かよの」
空亡は落胆したふうに顎をあげる。
鬼門は氷のような視線を、妖の頭領に向けている。
それを空亡は色のない瞳で受け止める。
静かでありながら、今にも暴れ出さんばかりの瞳だ。
「人という生き物は、事が起こってからしか行動に移せぬのか」
空亡は葉擦れの音にも似た閑静な声で、鬼門を面罵する。
鬼門は額に青筋ひとつと浮かべず、やけに平然とした面持ちであった。
そして、
「それが……“人間”でございますよ」
と、強調した。
「彼を生かす事にどれほどのデメリットがあろうと、この酒童嶺子が人の心をもち、西洋妖怪駆除に貢献する意思があるのなら、我々は彼を生かしたい」
鬼門は言い募ると、そこで電池が切れたかのように黙り込む。
それを見計らい、今度は加持が口を切った。
「―――もちろん、彼ができるだけ鬼にならぬよう、我々も対策をしております」
「ほう」
言ってみせよ、とばかりに空亡が唸る。
「まずは鬼の血を封印するための呪具の強化に務めます。
彼の精神力を鍛錬する必要もあります。
上手くすれば、人としての理性を持ちながら鬼の血を使いこなせるようになれるかもしれません。
その羅刹をも逸脱した力を利用し、1日でも早い西洋妖怪絶滅を成功させる事ができれば、あなた方たちにもメリットとなるでしょう」