羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
まるで長い長い長文を朗読するかのように、加持の声がさらさらと流れてゆく。
「鬼の血は、人の精神力ではどうにもならぬぞ」
白澤が口を挟む。
しかし空亡の威圧感ある瞳に制され、そこで押し黙る。
「どうにかなる、という保証はあるのか」
白澤を牽制した空亡は、その辛辣な無表情のまま加持に差し向かう。
「どうにかするのです」
加持も負けず劣らず、空亡に感情なき顔で返す。
「なるほどな。
確実性はないが、やるだけやらせよ、ということか」
「悪くいえば、そういうことになります」
「では失敗した時はどうする?」
空亡の問いかけはは、“答えを求める”というより、なにか“特定の言葉を引き出させる”のに近い。
「……この首を、賭けましょう」
加持が応答する。
手刀をそっと首筋に当てながら、だ。
「―――言ったな」
空亡が唇を舐める。
そして勢いよく立ち上がるや、広袖をなびかせて妖の群れに向き直る。
「聞けい、皆の衆」
空亡の声が波紋となり、無数の妖たちを黙らせる。
空亡の声はさして大きくはなかった。
しかし酒童はその声を耳にした時、その耳に浸透して来るなんともいえない不気味な音に、思わずびくりと肩が跳ね上げた。
「酒童嶺子は、しばし人間側に委ねよう。
だが鬼子の力が再び甦り、人としての理性を失ったその時は。
羅刹地区長の加持 昌己(まさき)の命、および酒童嶺子の身柄を妖の側に引き渡してもらうぞ」