なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

「結局あんたは振られたのよ。いいじゃないそれで元の生活に戻れるんだから」

「...いいや、まだ俺は...」


 萩原さん? なんか呂律回ってない。やだ、なにやってんの。


「私が忘れさせてあげるから」


 甘い声だ。ギシッて、何かが軋む音がした。

 まさか.........

「こんなに飲んで。あなたをこんな風にさせるなんて、なんて悪い女なんでしょうね」

 クスクス笑ってるけど、きっとこれを私が聞いてるの分かっててやってるんだ。

 わざと電話してきて聞かせてる......


「夏菜......」


 不意に聞こえた声に頭の先から電流が通り抜けた感覚。足の指先が痺れた。


「いいわよ。その名前でもなんでも、呼びな...あっ...」


 思わず耳から放した。

 だって聞こえてきた喘ぎ...

 考えたくない。そんなこと考えたくないけど、耳から放す時に聞こえてきた音は、ギシギシと等間隔に軋む音。


 それって.........



 違うって信じたい。

 別れてまでもなんで信じるとか思ってんの。

 私からさよなら言ったんだから、萩原さんが誰と何をしようと関係ない。


 別に信じることでもない。


 でもね、やっぱりまだ受け入れられない。



 萩原さんと野々宮さんが...って考えると気持ち悪くて、電話を投げ捨てた。

 バッグをひっつかみ、スニーカーを履いて、駆け出した。そして、そのまま二度とここへは戻らなかった。
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