②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
 ひきつった笑みで、白条がこちらを見つめる。


「……霊感ないんすか?」

「うん」

「……霊視は?」

「もちろんできない」

「お祓いや、口寄せは?」

「ムリムリ」

「……ぅえ!? ……じゃあ、あの人の武器ってなんなんですか? どうやって今まで……?」


 当然の困惑だろう。

 私も、最初は全く理解できなかった。

 今でさえ、その全てを頭で理解しているわけではないのだから。


「まぁ、見ていればわかるよ。 それに、今は私もいるから」


 もっとも、私なんてどこまで役に立てているのかわからないのだが。

 少なくとも、この眼で見たものを『情報』として彼に渡すことはできる。

 私は、彼の『眼』に、そして『耳』になることで解決への力添えができればそれで機能を果たすのだ。


 あとは灰川倫介という『脳』が全てを導いてくれる。



「まったくわからない……。無能力で挑むなんて、命がいくつあっても足りないだろ」


 灰川さんが、事務所のドアを開きながら狼狽する白条にだるそうな視線を送る。


「まあ、君も随分『異質』な生き方を望んでいるようですし、暫くすればわかりますよ。そんなことより仕事を始めます」


 颯爽と出て行く灰川さんを、追いかけるようにして私達は事務所を後にする。




 ――具体的には、灰川さんは半年前まで、完全な無能力者ではなかった。

 霊視こそできなくても、その存在をおぼろげながら探知する事はできていたのだ(実際に、私の事件の時もそうしていた)。

 だが、あの炎が。

 あの『怨炎』が彼の左腕を焼いてから、ついに彼はその感覚まで失ってしまった。

 今では条件が揃わなければ視覚で認識することも聞くこともできない、ただの一般人と相違ない。

 本当に『無能力』なのだ。

 しかし、この事を彼自身は微塵も気に留めてはいない。むしろ彼の考察力は更に研ぎ澄まされているきらいがある。それが私に罪悪感を抱かせないためなのか、本当に支障ないと考えているのか。読み取りづらい部分はあるのだが、仕事に影響が出ていないあたり、恐らく後者なのだろうと、勝手に推測する。



 ――私は渦なのかもしれない。巻き込み、巻き上げる。渦。



 彼を少しでも支えたい。

 その責任があるし、そうすることで私も救われる。

 贖罪の運命を進む中で、もう彼の力になることは必然なのだと理解している。

 多くを語らない彼に、ただ静かに力を貸すことが、『今』という脆い足場の現状を紙一重の危ういバランスで支えているのだろう。


 ――彼の『眼』になること。それが、私の役割だ。



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