②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
――私の体質は、以前の比でない程に『敏感』になっていた。
以前は、普段せいぜい金縛りに遭ったり、チラホラと見かけたりと。例外を除けばいろいろと気になる事は多かったが、日常生活に支障をきたすほどのものではなかった。
しかし、今は『こう』だ。
私はただそこにいるだけで逆に『彼ら』を吸い寄せる。その存在もより鮮明に、より深く見通せるようになってしまっているのだ。
「……やっぱ、見えてるんだな。ようやく会えた」
電柱の影からのっぺりと姿を現したのは、全身がナナフシのように細長い、長身のやせ細った男だった。
顔は雪のように白く、目は昆虫の複眼のように焦点があっていない。およそ生気というものを感じさせない面持ちだ。
――その通り、もう生きてはいないのだが。
「女子大生に憑きまとってどうしようっていうんですか」
「いや、どうもしないさ。ただ、俺は伝えたいだけだよ。未練はないが、同様に時間もない。せめて一人くらいには俺を認知できる奴に会いたかったんだ」
私は胸の奥に針で刺したような痛みを覚えた。
この人は、『わかっている』のだ。
自分の運命を、理解している。
「……私に、なにかできることはある?」
「――ああ、制約があるからな。多くは語れない。だから一つだけ言い残して消えることにするよ」
男は小刻みに震えながら、掠れた声帯で続けた。
「――『箪笥(たんす)』だ。箪笥に気をつけろ」
「――たんす……?」